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なぜ今さら、ハンドスピナーのなのか
「ちゃんと回る、そこそこいい金属のハンドスピナーが欲しい」。
ただそれだけで調べ始めたら、まともな情報がほとんど残っていなかった。
検索してもYouTubeを開いても、出てくるのは2017年当時のバズ動画ばかり。当時のトップYouTuberたちがこぞって回していた、あの熱狂の残骸だ。
「で、2026年の今、どれをどう買えば正解なの?」という実用情報に、なかなかたどり着けない。
だったら自分で買って、今わかることを整理してしまおう、というのがこの記事の趣旨だ。
ブームの正体の振り返りから、選び方、実際に買って回した結果(初回は正直いまひとつだった)、そこからどう伸ばすかまでのまとめである。
この記事でわかること
- ハンドスピナーブームとは結局何だったのか、そしてなぜ一瞬で終わったのか
- ブーム後、2026年の今も残っている「二つの世界」
- 失敗しない選び方(素材・ベアリング・加工・重量の4軸)
- スピンギア FS05Sの実機レビュー(回転時間2分45秒の"いまひとつ"を隠さず)
- その2分45秒をどう伸ばすか、という一番実用的なノウハウ
第1章 ハンドスピナーブームとは何だったのか
2017年、世界が熱狂した
ハンドスピナーは2017年に世界的な大流行を起こした。
授業中に回す子どもが続出して各国で持ち込み禁止令が出るほどで、雑貨屋のレジ横はどこも山積み。
日本でもガチャや100円ショップにまで並んだ。
数ヶ月で世界の隅々まで行き渡った、典型的な瞬間最大風速型のブームである。
そもそも2017年って、どんな年だった?
ハンドスピナーがどんな空気の中で流行ったのか、あの年を思い出してみた。
- 3月、Nintendo Switchが発売。
品薄が続き、「手のひらで遊ぶ」熱が最高潮だった年 - iPhoneは発売10周年。
ホームボタンを廃したiPhone Xが発表され、Face IDが話題をさらった - SNSは「インスタ映え」一色。
この年の新語・流行語大賞に選ばれた言葉で、"写真映えする回転"は拡散の格好の燃料になった - もう一つの年間大賞は「忖度」。
森友・加計problemで日本中がこの言葉を口にした - 将棋の藤井聡太が公式戦29連勝の新記録(当時14歳)。
世は空前の将棋ブーム - 陸上の桐生祥秀が、日本人初の100m9秒台(9秒98)
- 上野動物園でパンダのシャンシャンが誕生
- 安室奈美恵が引退を発表
- 世界では、就任したての米トランプ大統領、世界中で流れた"Despacito"、そして年末に一気に高騰したビットコイン——ハンドスピナーと同じ、"一過性の熱狂"のもう一人の主役だ
こうして並べると、2017年は「手のひらで完結する遊び(Switch)」「SNSで映える瞬間(インスタ映え)」「一瞬で膨らんで弾ける熱狂(ビットコイン)」が同時に走っていた年だとわかる。
ハンドスピナーは、まさにこの三つの空気が交わる場所に生まれた。
手のひらで回り、写真と動画で映え、そして誰よりも早く飽きられた。
あのブームは、2017年という時代そのものの縮図だったのかもしれない。
ちなみに筆者は、結婚と第一子誕生でそれどころじゃなくて世間のことぜんぜん覚えてない。
「起源」には有名な誤解がある
よく「発明者はキャサリン・ヘッティンガー」と言われるが、これは正確ではないとされる。
彼女が1990年代に取得したのは別構造の玩具特許で、更新料を払えず失効している。
今のベアリング式スピナーとは系譜が別物だ。
金属削り出しの"ちゃんとしたスピナー"の源流としては、
EDC(日常的に持ち歩く道具)コミュニティで生まれたTorqbar(Scott McCoskery)
が挙げられることが多い。
つまり本来は、ナイフやガジェットを愛でる大人の趣味から出てきた道具だった。
それが2017年に安価な量産品として爆発的にコピーされ、子どものおもちゃとして世界に広がった。この「出自と流行のねじれ」が、後の展開を理解する鍵になる。
「集中力・ADHDに効く」の触れ込みと、実際
ブーム期には「ADHDに効く」「集中力が上がる」「ストレスが減る」と盛んに語られた。ここは冷静に見ておきたい。
「そわそわ手を動かす(フィジェット)」こと自体には、一部の人の集中を助ける示唆はある。
ただしハンドスピナー"そのもの"が宣伝どおりの効果をもたらす、という強い根拠は乏しい。
むしろ視覚的な回転が注意を奪い、教室ではただの気散じになる、という指摘の方が目立った。
マーケティングのコピーが、エビデンスより先に走っていた。
効能を鵜呑みにするより「単純に触って気持ちいいおもちゃ」として付き合うのが正解だと思う。
なぜ一瞬で終わったのか
- 供給過多:構造が単純で誰でも作れるため、粗悪品が市場に溢れた
- 品質のバラつき:「回らないスピナー」を掴まされる人が続出し、体験が裏切られた
- 単純な飽き:一発ネタとしては、最初の驚きが長持ちしなかった
粗悪品が体験を薄め、飽きが止めを刺した。
見事な打ち上げ花火だった。
第2章 ブームの後に、何が残ったのか(2026年の現在地)
9年後。
メインストリームとしてのハンドスピナーは、正直もう死んでいる。
だが完全には消えておらず、二つの世界が静かに生き残っている。
ここが「今調べても情報が出てこない」領域だ。
世界その1:EDC・コレクターの「手のひらの工芸品」
もともとの出自であるEDC側では、今も高級スピナーが作られ続けている。
素材のグレードは、チタン(Grade5)を入口に、削るとグレーに発色するジルコニウム、虹色のティマスカス/モクチ、コレクター最上位の超伝導体(Superconductor)へと上がっていく。
海外ブティックだとTorqbar、Billetspin、Rotablade、Vorsoといった名が今も生きていて、価格は数千円から数万円超。
回すためというより、削り出しの精度と質感を所有して愛でる、小さな金属アートの世界だ。
世界その2:日本ではスキルトイ専門店が作り続けている
日本で今もっとも現実的なのが、ヨーヨーなどのスキルトイ専門店が作るスピナーだ。
スピンギア: ハンドスピナー ハンドスピナー www.amazon.co.jp
中でもスピンギアは、ヨーヨーと同じ加工技術で金属スピナーを板材から削り出し、全数検品で出している。
ブームが去った後も職人の手仕事として静かに残った
——これが2026年のリアルな現在地で、今回僕が買ったのもこの世界のものだ。
なお「手遊びグッズ」全体で見れば、今は磁気スライダーなど、より静音で所有感のある方向に進化している。
第3章 2026年、どう選ぶのか(選び方の4軸)
多くの人が欲しいのは「¥300のプラ製から一段だけ上がった、ちゃんと回る金属スピナー」だと思う。
見るべき軸は実質この4つだけだ。
- 素材(=重さ):
アルミより真鍮・銅を。重い方が慣性で回転が伸び、ズッシリ感で所有満足度も上がる - ベアリング:
R188(ヨーヨー由来のインチ規格)か良質な608。最重要は「オープン/脱脂済み(ドライ)」であること。¥300が回らないのは、ベアリングに硬いグリスが詰まって抵抗になっているからだ - 加工精度・バランス:
本物は無音・無振動でフェードアウトが長い。素人目には測りにくいので、全数検品しているメーカーを選ぶのが確実 - 重量とサイズ:
重い(真鍮・銅系で60〜105g)ほど伸びる。机で眺めるなら重い方が正義
価格帯マップ
- 〜¥1,000:
量産プラ。回って数十秒 - ¥3,000〜5,000:
金属+まともなベアリング。ここが感動の費用対効果ピーク - ¥20,000〜50,000:
チタン等の本格帯。所有感の世界 - ¥50,000〜:
ティマスカス等コレクター素材。もう回転時間の話ではない
¥300 → ¥3,000〜5,000の一段が、いちばん「お!全然違う!!」となる価格帯。
ここから上は自己満の領域と割り切っていいだろう。
第4章 買った:スピンギア FS05S ヘヴィトルクバー2026
買ったのはこれ。
スピンギア FS05S ヘヴィトルクバー改(真鍮削り出し)
なぜこれを選んだのか
- 外周重量設計:
中心を軽く、重量を外周に寄せて慣性を最大化したトルクバー型。長く回すために設計されている - 専門店の全数検品:
回転クオリティを店が保証している - 偽物リスクを避けられる:
正規の販売元から買えば、粗悪品を掴まされずに済む - あとかっこいいから!:
8歳、5歳の息子、3歳の娘に自慢できそうな金色と赤のやつにした。
真鍮Raw仕上げは鏡面ではなく、打痕や切削痕が残る工具っぽい質感。
ツヤピカを期待すると肩透かしを食うが、道具としての説得力はむしろこっちだ。
手に取るとまずズッシリくる。
真鍮の密度感が、そのまま「これは回りそうだ」という期待に変わるZE…。
回してみた結果:2分45秒。正直、いまひとつ
届いて、机の上で弾いた。
・・・。
結果は2分45秒。
……正直に言う。いまひとつだった。
事前に「机置きで6〜9分、縦回しなら12分」という記録を見ていたぶん、余計にそう感じた。「あれ、こんなもん?」が最初の感想である。
とはいえ、300円の子供のハンドスピナーと比べるとめっちゃスムーズに回るのは理解した。
ほんで、めちゃくちゃ気持ちがいい!!
でも、この「いまひとつ」を掘り下げるのが本題になる。結論を先に言えば、2分45秒は"手持ち感覚で初回にパッと回した値"であって、本来の実力ではない。
実機動画(無音)
言葉より映像が早いので、実際に回している様子を無音で撮った。
ほぼ初回のリアルな回り方だ。
▼ 実際にFS05Sが回っている様子(無音)
第5章 「2分45秒」をどう伸ばすか
出回っている6〜9分という記録は、条件を最適化した数値だ。
届いて手でパッと回した初回とは前提が違う。
埋めていけば同じ本体でも伸びるはずである。効果のある順に下記する。
- 手持ちより「机置き・水平」:
手ブレと傾きでベアリングが余計な抵抗を受ける。
平らな机で完全に水平が基本 - 弾き方:弱く撫でず、まっすぐ強く一発で。
持続時間は初速(回転数)にほぼ比例する - ベアリングの脱脂・ドライ化:
最大のレバー。グリスが抵抗になる。
標準は元々ドライなので基本不要だが、汎用品に換えるなら脱脂は必須 - 慣らし(break-in):
新品は当たりが出ておらず微妙に渋い。
使い込むと馴染んで伸びる。初回値で判断してはいけない理由である - 縦回し:
荷重の向きが変わり、縦回しだと回転時間が2〜3割伸びるという記録がある - メンテ:
指の脂やホコリで徐々に鈍る。掃除の方がパーツ交換より効くことも多い
僕の2分45秒は「机置き・標準ベアリング・慣らし前」の初回値。
伸びしろはまだ十分ある。
ベアリング交換は「最後のひと詰め」
「高いベアリングに替えれば劇的に回る」と思うかもしれないが、段差の大きさはこうだ。
- グリス入り → 脱脂ドライ:
別物。誰でも体感できる激変 - まともなドライ → 高級ドライ(NSK等):
体感2〜3割増し。「わかる人にはわかる」世界
FS05Sの場合、"よく回る"の正体は外周重量の設計(慣性)であって、ベアリングの銘柄ではない。
最初からドライの良品が載っている前提なので、感動の大半はもう本体側で回収できている。
感動の内訳をあえて数字にすると、本体設計で8割、ベアリングがドライで1.5割、銘柄をNSKに上げて残り0.5割、という感覚だ。
NSK換装は、ハマってきた人の「次の一手」に取っておくのが吉だ。
それでも沼に片足を入れたい人へ
国産のNSKマイクロプレシジョン製フラットベアリングは脱脂済み・即装着可能で、縦回し12分記録もこれを積んだときのものだ。
買う前に必ず「外径」を測る
ここで一つ重要な注意。交換ベアリングには、よく似た二つの規格がある。
- R188:外径9.525mm(多くのトルクバーで採用)
- サイズC:外径12.7mm(ヨーヨー由来の大きめ規格)
僕は最初「FS05SはR188だろう」と思い込んでいた。
だが念のため本体を分解して実測したら、外径は12.7mm=サイズCだった。
危うくR188を買って「届いたのに入らない」をやるところだった。
9.5mmと12.7mmは見た目で分かるほど違うので、買う前に必ずベアリングを抜いて外径を測ること。
(▼分解して外径を実測した時の図)



というわけで、FS05Sに載せるならサイズC(外径12.7mm)のNSKフラットが正しい。R188版ではないので注意。入手はスピンギアの公式店(公式サイト・楽天店・Yahoo!店)で、在庫は流動的なので都度確認を。
スピンギア: ハンドスピナー ハンドスピナー www.amazon.co.jp
第6章 2026年、失敗しない買い方まとめ
- いちばん感動するのは最初の一段:
¥300のプラ製から金属+R188へ。その先は自己満 - 本命はトルクバー型の金属モデル:
外周に重量を寄せた設計を選ぶ - 偽物に注意(これが一番大事):
同じ商品写真で中身は粗悪品、という出品が実在する。販売元が「ヨーヨーショップ スピンギア」かを必ず確認。妙に安い無名セラー+「R188!5分回転!」の強い謳い文句は疑う。迷ったら公式サイトが事故らない - ベアリングは「オープン/脱脂済み」を:
汎用のZZ・両側シールド(グリス入り)は安いが回らない - 期待値は「机置き・水平・慣らし後」で測る:
初回の手持ちで判断しない
手軽に一段だけ上げたいなら、
国産メーカー(上述したスピンギア等)の金属スピナーから入るのも良いだろう。
よくある質問(FAQ)
Q. 何分回れば「普通」?
プラ製で数十秒、金属のちゃんとしたモデルで机置き数分が目安。
記録級の6分以上は、脱脂・慣らし・縦回しなど条件を詰めた数字。
Q. 2分45秒はハズレ?
たぶん違う。
手持ち・慣らし前の初回値なので、机置き・水平・使い込みで伸びる余地が大きい。
Q. ベアリングは必ず替えるべき?
いいえ。FS05Sは標準でドライの良品が載っている。
回転の主役は外周重量なので、まず標準で楽しんで、物足りなければNSK換装で十分。
Q. ADHDや集中力に効く?
「手遊びが一部の人の集中を助ける」示唆はあるが、スピナー自体に宣伝どおりの効果がある強い根拠は乏しい。
触って気持ちいいおもちゃ、として付き合うのが健全。
Q. 子どもに買っていい?
金属モデルは重く硬いので、振り回すと危ないし床も傷つく。
小さな子には軽いプラ製が安全。眺めて回す大人向け、という理解でいい。
てか、取説には13歳以上対象って書いてありました・・・笑
結び:ブームとは何だったのか
ハンドスピナーブームとは、EDCの手のひらの工芸品が、一瞬だけ世界規模のバズに引きずり出され、粗悪品と飽きによって沈んでいった現象だった。
祭りの後に残ったのは、職人が黙々と削り続ける金属の塊と、それを回して「お、すごい回るじゃん」と静かにニヤける、ごく個人的な楽しみだ。
構造としてはオーディオのケーブル沼とよく似ている。
最初の一歩がいちばん大きく、その先は自己満の世界。
だからこそ最初の一個をちゃんと選べば、それで十分に満たされる。沼
は縁で遊ぶくらいがちょうどいい。
僕の2分45秒は、まだ慣らしも脱脂もしていない初回の値だ。
ここからどこまで伸ばせるか——手のひらの上で金属が静かに回り続けるのを眺めながら、もう少しだけこの小さな沼の縁で遊んでみようと思う。
ただ、ブームは終わったが、回すこと自体は、ベアリングの感覚自体は、
たぶんホモサピエンス(特に機械工学卒)にとってはずっと気持ちいいままである。
安心してよいだろう。





















