サイコンのEdge530が故障した。
GARMINに修理に出したら保証期間外なのにも関わらず、なんと神対応無料で交換していただいた。
本記事では事件の経緯を備忘録として残しておこうと思う。
Contents
ことのいきさつ
Edge530を購入したのは約1年半前。
Edge530はGARMINのまあまあ上位機種。
決して安くはないサイクルコンピューターだ。
年末のボーナスを携え、清水の舞台から飛び降りる覚悟で購入。
憧れのGARMINである。
分を超えた買い物だったが、その後のサイクルライフが限りなく色彩を増したのは言うまでもない。
#液晶もカラーだし。

蜜月
その後、私のロードバイク人生は常にEdge530と共にあった。
そのサイコンを非常に気に入って使っていた。
Edge530はいい。
Edge530が奏でるGARMIN特有の例の電子音(ピロリ♪音)は人々の心を潤してくれる。
「ピロリ♪」は人類の生み出した文化の極みだよ。
そう感じないか?
私はEdge530に語りかける。
起動スイッチを押せばEdge530は
「ピロリ♪」と応える。
そして当たり前のように走行情報を私に伝達し始める。

Edge530は私とロードバイクをつなぐ”へその緒”の様な存在だった。
胎児と母親が繋がっているように、私とロードバイクは1つだった。
異変
ある朝。初夏の心地よい朝のまどろみだ。
私は通勤のためロードバイクにまたがる。
それはいつもと変わらない爽やかな朝だった。
ある1点を除けば。
私はEdge530を起動させようとサイコンに手を伸ばした。
次の瞬間、目を疑う光景が飛び込んできた。

なんかハゲてね??
身体全体に電流が走った。
液晶画面のガラスが本体から剥がれかけているように見える。
状況把握に頭をフル回転しようと努めたが、時すでに遅し。脳内を巡る血流は自律神経によって既に停止させられていた。
それは私の脳みそが自己防衛のため目の前の現象を拒絶しているように感じられた。
一つ間違いないのは、お気に入りのEdge530が何かしらの異変をきたしているということだった。
もはやなんかハゲてね??以外の思考を巡らせることはできない。
震える手を抑えながらEdge530のボタンを押す。
「ピロリ・・・♪」
いつもと変わらない。
どうやらEdge530の心臓部は無事のようだ。
だがそのピロリ音はどこか精彩を欠いていたように思われた。
Edge530も自らに起こった異変をまだ受け入れられていないのだろう。
修理をしてもらうことも考えたが既に保証期間は終わっている。
つらい。
非常につらい。
その日どこか仕事が手につかなかったのは言うまでもない。
機能上問題はない
それ以降、悶々とした日々が続いていた。
保証期間外というのもあり、私はなかなか動き出すことができなかった。
結果、だましだまし使っていると言わざるを得ない状況が続いた。
確かに、なんかハゲている。
なんかハゲているのだが、それは見た目上だけの問題であり、機能上の問題が発生するわけではない。
Edge530は変わらず「ピロリ・・・♪」と応えてくれた。
俺はまだやれる。やれるんだ。と言わんばかりに。
もちろん見た目はロードバイクで速く走るための最も重要なファクターであることに間違いはないのだが、
そんなEdge530の健気な姿をみると、どうしても「もういい、休め。」とは言えなかった。
しかし、そんな宙ぶらりんの状況が心に隙を作り出し、後の惨劇を引き起こしたのかもしれない。
異変2
中途半端な気持ちでロングライドに繰り出していたある日の出来事だった。
走行中、段差に差し掛かった。
段差を超えた。自転車全体に衝撃が加わる。
それは瞬間の出来事だった。

いや、ヤバくね?
目の前が真っ暗になるとはこのことで、
それはこの世の終わりかと思われた。
あるいはEdge530は段差の衝撃で絶命してしまったのだ。
とっくにEdge530は限界だったのだ。
限界の状態でEdge530は働き続けていたのだ。
それに気づかずEdge530を酷使していた自分に腹が立った。
私は自らの手でEdge530を死に追いやったのだ。
贖罪の念がこみあげてくる。すまん、すまないEdge530。
私を赦してくれ。
「ピロリ・・・♪」
「!!?」
私の願いに呼応するかのように、
Edge530は電子音を世に解き放った。
いつもと変わらない、希望に満ちた声だ。
なんということだ。
Edge530はまだ死んではいなかった。
いや、どう見てもヤベえんだが。
こんな状態になってもまだお前はやれるというのか。

不死鳥。
この状況は満身創痍の中「この音がオレを蘇らせる」と思案する三井寿を彷彿とさせた。

どうやらまたしても心臓部は無事のようだ。
私は応急処置としてセロハンテープをEdge530に巻いて液晶と本体を固定した。

そうしなければ、液晶は段差のたび暴れ馬のようにボディの上を飛び跳ね続けた。
終焉
数日後の出来事である。
すっかり夏だ。
夏は好きだ。だが夏のライドは過酷だ。
湿度は高く、もうもうとした空気が肌にへばりつく。夏の日射線がジリジリと肌に照り付ける。
サドルの上で私の脳内はすっかりアイスコーヒーが飲みたい欲望に支配されていた。
多くの人類にとって自然な欲求の1つだろう。
私は通りかかったスターバックスコーヒーにロードバイクを駐め、店舗に入る。
涼しい。
そしてドリップコーヒーのアイスを注文。サイズはTallと店員に告げた。
会計を済ませコーヒーを受け取り、店内のご機嫌な座席に腰を下ろす。
夏に飲むアイスコーヒーとはなんというウマさだろう。暫しコーヒーの味とお店の雰囲気を愉しんだ。
この時私は完全に調子をブッこき散らかしている事実を知る由もなかった。
スタバはいい。
スタバのコーヒーは心を潤してくれる。
人類の生み出した文化の極みだななどとアホな思考を巡らしていた。
日は着々と傾いてきていた。
その時は気づいていなかった。夏の天気は急変しやすい。
そう、ゲリラ豪雨だ。
ハッと気づいた時には既に私のロードバイクは大粒の雨に打たれていた。
その発想にいたるまでに時間はかからなかった。
「セロテープで固定しただけのボディ、防水性能は不十分なのでは?」
またしても自ら悲劇のトリガーを引いてしまった。私は恐怖の大魔王に自らの魂をまた差し出したのだ。
ほぼ飲み切っていたコーヒーカップをゴミ箱に放り投げ、急いでロードバイクの元に向かった。
とてつもない豪雨だ。
一瞬で着ていた服は水浸しになる。
あいつは一体なにをやっているんだ?
スタバの中にいるお客さん達の刺すような視線を感じる。
しかしそんなことを気にしている余裕はない。
Edge530に駆け寄る。そして様子を恐る恐る確認する。
「びしょびしょだ。」
嫌な予感しかしない。
頭の中にはひたすら機械音が鳴り響き、首筋は燃えるように熱かった。
Edge530をマウントから取り外し、傾けた瞬間ビシャビシャと水が流れてきた。
ボディの中は水で満たされていたのだ。
これは完全に終わっただろう。
私は直感した。
液晶が外れたタイミングでなぜすぐに修理に出さなかったのか。
自分の愚かさを呪った。
生きていてくれ。
私は懇願した。同時にとてつもない恐怖に襲われている。
ボタンを押す。
「・・・。」
Edge530は応えない。
いや待て、
しまった。
またやってしまった。
背筋が凍る。
腋から嫌な汗が噴き出してくる。
こういう時、すぐに電源を入れるのは絶対NGだとこないだ誰か偉い人が言っていた。
濡れた状態で電源を入れると回線がショートして電子製品を死に至らしめる。だからしっかりと乾かしてから電源を入れる必要がある。
私は瀕死に追い込まれたEdge530の心臓にとどめの一撃を突き刺した可能性がある。
この期に及んで私はバカ丸出し2連発を成し遂げたのだ。
大粒の雨が地面を打ち付ける音だけが、そこには響いていた。
審判の日
私はもはやサイコンと呼べるのかすらわからないその物体を家に持ち帰った。
丹念に乾燥させようと試みた。
時間が経過する。
十分に乾燥させたと思ったタイミングでスイッチを押してみた。
「・・・。」
やはりダメか。。。
「ピロリ・・・♪」
!?
一度死んだ者が、蘇った。
復活である。
奇跡が起きたのだ。
なにか神聖な力をそこに感じた。復活祭である。
だがしかし喜びもつかの間。
Edge530には致命的な後遺症が残っていた。
液晶は濡れた跡がくっきりと残っていた。
また、充電してもバッテリーは3分で100⇒0%になった。
もはやEdge530は重篤の状態まで追い詰められた。
心臓は辛うじて脈打ってはいるものの、生命維持装置を外されて生きてはいけないだろう。
私の怠慢がEdge530をここまで追い込んだのだ。
Edge530は損なわれてしまったのである。
修理に出す
HPを見てみると、修理費は2万円と書いてある。
安くはない。私は一端のサラリーマンだ。
月々の予算から2万を捻出する苦しみは想像を絶する。猛烈な痛手だ。
しかしこれは私の犯した罪なのだ。
私の怠慢がEdge530をここまで追い込んだのだ。
罪の重さは金ではかることはできない。
が、私はその金額に自分の犯した罪の重さを投影し、また定量的に捉えようと努めた。
GARMINのサイトにアクセスする。
どうやら問い合わせフォームに記載し、荷物を送れば修理してくれるようだ。

フォームには現状をすべて正直に記載しようと思った。
正直こそがEdge530に対する唯一の贖罪と思われた。
名前や住所など諸情報を入力していく。
もっと早くやっておけばと後悔しながら進めていく。
ようやく故障の経緯を記載する欄まで到達する。
その欄には最大50文字で記載の指示がある。
私の思考はまたそこで停止する。
待て。
無茶だ。
ここまでのいきさつを記述するのに既に3000文字以上費やしている。
それを50字以内って。
60倍に圧縮しろというのか。
私は弱った頭を回転させた。
ことのいきさつについて極限まで肉をそぎ落とした。
結果、お問い合わせ内容は非常にシンプルとなった。
「液晶が剥がれて内部に浸水した。」
#15文字
そうだ。
これでいい。
これ以上でもこれ以下でもない。
世界は非常にシンプルに表現できる。
#てゆうかこの記事も15文字で十分なのかもしれない。
荷物を送付
フォームに記載して送信ボタンを押した後、GARMINから自動メールが届く。


指定の住所にモノを送ってくれと言う。
私は速やかにEdge530の箱詰め作業に移った。
衰弱しきったEdge530を箱に詰める。
その小さい箱は棺を想起させた。
異世界に生贄を送り込むための棺だ。
やっとの想いで棺の中にEdge530を横たえ終えると、告別の言葉を紡いだ。
「ピ・・・ピロリ・・・泣」
Edge530は不安げに、そして喉の奥から絞り出すように小さく電子音を奏でた。
私はガムテープで蓋をした。
棺を両手に抱え、私は近所のファミリーマートに向かう。
その道のりはあたかもゴルゴダの丘へ向かうヴィア・ドロローサ(苦難の道)のように感じられた。
例のファミマの入店音が周囲一帯に鳴り響く。
その入店音は儀式が終焉に近いことを予兆させた。
宅急便で荷物を送付する。
送付票にボールペンで情報を記載し、棺を”レジの者”に渡してお金を払う。
レジの者が荷物を奥に運んでいく様子を見て私は涙を流した。
#実際には流していない。
※ちなみに送料はGARMINの修理規定により個人持ちである。
神対応
数日後、メールが届く。
GARMINからだ。

目を疑った。
GARMINは、私がとどめを刺したかつ保証が切れたEdge530を無料で交換すると言っている。
なんということだろう。
犯した罪は赦されたというのか?
翌日、荷物が送られてきた。

それにしても、一連の対応は非常に迅速だ。
スイッチを入れる。
Edge530は「ピロリ♪」と鳴った。

私の心に暫くぶりの潤いがもたらされた。
ああ、全ては元に戻ったのだ。
何もかもが彩り輝いていた世界に私は戻ってきたのである。
私はもう孤独ではない。
体の奥底から神(GARMIN)に対する想いが溢れてきた。
そうだ、神に祈ろう。
心は感謝の念でいっぱいに満たさていた。
それはまさに感謝の念がはちきれんばかりに詰まったとてもみずみずしい果実だ。
その果実を絞れば感謝100%絞り汁が出来上がるだろう。
ジンで割ってもウマいかもしれない。
まとめ
GARMIN殿の対応にはただただ感謝するしかない。
自分の責任で再起不能に貶めたサイコンを神対応で交換していただいた。
本当にありがたい限りである。
今回の一件は、当たり前の存在の大事さを再認識させてもらう結果となった。
いや、正確には当たり前なんて存在しないか。
今の生活も、今の幸せも、今の嫌なことも、今の悲しいことも、今隣にいる人も、今の見ている景色も、今考えている将来の夢も、これからもずっと隣にいてくれる「空気」や「環境」じゃない。
何事にも期限があることを忘れてはならない。
今がずっと続くわけではないと認識すれば毎日を大切にできる。
当たり前なんて存在しない。
いつ何が起きるか分からないことを忘れてはならない。
「絶対」なんてあり得ないことを普段の生活で忘れてはならない。
今出来ることを、全力でやろう。
今伝えられることを、全力で伝えよう。
Edge530は今日も「ピロリ♪」と応える。
