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ビンディングシューズ磨きは、意外と気持ちが良かった。
昨晩シューズを磨いてみて装備が不十分だと思った僕は、会社帰りにシューキーパーや専用のクリーナーなど靴磨き専用の道具をいくつか購入した。
ビンディングシューズ磨きは掃除と同じで取りかかるまでが面倒だが、実際にやってみるとスッキリして気持ちがイイ。
不思議なことに、シューズを磨いていくと同時に心も磨かれていくような、そんな変な感覚を覚えた。
掃除って意外といいもんだな。
ただ、作業をしている間も、頭の隅に疑問は残っていた。
こんなことをしていて本当に速く走れるようになるのだろうか?
表彰台に立てるような選手にになれるのだろうか?
ポガチャールが本物のチャンピオンなのだとしたら、もっと効果的な方法を教えてくれてもいいんじゃないか。やっぱり「ビンディングシューズ磨き」なんて地味すぎる!
「あの・・・」
昨日に引き続き、俺はポガチャールに疑問をぶつけてみた。
「ビンディングシューズ磨きなんかで、俺は本当に変われるのでしょうか?もっとこう、速く走れる『秘訣』みたいなものを教えてもらえたら・・・。」
するとポガチャールは少し考えてから言った。
「例えば、こういうのん?『表彰台に立ちたいならタバタ式トレーニングでVO2MAXを上げなさい』みたいな」
「あ、そういうのです!!是非詳しく教えてください!」
「いや、教えるも何も、ここに書いとるで」
ポガチャールはスマホでググったページを俺の目の前に置いた。
「このページ、みてみや」
「あ・・・」
「お気に入りページに登録しとるやん」
俺は恥ずかしさで顔が熱くなった。確かにそのページには「VO2MAXを向上させる方法」がハッキリと書かれている。
「『秘訣』を知りたい、いうことは、ようするに、『楽』したいわけやん?」
また、何も言い返せなかった。表彰台に立つには、表彰台に立ったことのある選手だけが知っている隠された秘密のようなものがあって、それを知ることができれば表彰台に立てると思っていた。
「それは『楽』して速く走れるようになったり、『楽』して表彰台に立ちたいっちゅう『甘え』の裏返しやん??」
ポガチャールの勝ち誇った憎たらしい顔を見ていると、俺は無性に腹が立った。いつかはポガチャールの弱点を見つけて叩きのめしたいと心に誓った。
「ほな、次の課題いくで。」
「は、はい。」
「お前、募金せえ。」
「え?」
「せやから募金や。まさかお前、ライド中にコンビニとかでお釣りを受け取った時、小銭を背中ポケットに突っ込んどらんやろな。コンビニで募金箱見つけるたび、その小銭全部そこに入れるんや。」
何言ってんだ、ふざけてるのか?
俺が汗水たらして稼いだこの大切な金だ、どこの誰に使われるかわからないあんな募金BOXに投げ込むわけないだろう。つーかそもそも募金なんて1回もしたことないぞ。
「なんでそんなことしないといけないんですか?一体何の意味があるんです?」
たまらず俺は質問した。
「お前、表彰台に立ちたいんよなぁ?ワシみたいに。黙ってやれや。」
「いや、あの、一応説明だけでもしていただきたいんですが・・・。」
「ほんましょうもないこと聞いてくるな。。。じゃあお前、コンタドール君、知っとる?」
それは知ってるぞ。
「は、はい、伝説のアルベルト・コンタドール選手ですよね?」
「せや、そのコンタドール君や。
ええか、コンタドール君はな、グラン・ツール(ツール・ド・フランス、ジロ・デイタリア、ブエルタ・ア・エスパーニャ)を完全制覇を達成したロードレース史上5人しかいない偉大なチャリっ子や。まあ、言うたら生きる伝説やな。
でな、コンタドール君にはな、色んな逸話があるんやけど・・・。昔からずうっと欠かさずやってきた習慣があるんや。それが、寄附なんや。」
「へぇ。」
「こないだもやで、いま世界でとんでもないことになっているコロナ問題に対して、自身が2011年のジロとツールで優勝を飾ったスペシャライズド製のバイクをオークションにかけてや、落札された約265万円をそのまま赤十字を通じて寄附したんや。思い出詰まった自分のバイクをやでぇ!」
それはすごい。
でも、そりゃあコンタドールはもう億万長者なんだろうし、265万円なんて屁でもないんじゃないか・・・?
「コンタドールが偉いのは分かりました。でも、なぜ寄付することが表彰台につながるんでしょうか?正直分かりません。」
「ええか?お金言うんはな、人を喜ばせて、幸せにした分だけもらうもんや。せやから表彰台に立って結果としてお金持ちに『なる』んは、みんなをめっちゃ喜ばせたいて思ってるやつやねん。でも、お金持ちに『なりたい』やつはやれハイエンドエアロカーボンフレームが欲しいやの、DURA-ACEしか認めないやの、自分を喜ばせることばっかり考えとるやつやろ。けどな。」
ポガチャールは遠い目をしながら続けた。
「世の中の人を喜ばせたいちゅう気持ちを素直に大きくしていくことが大事やねん。そやから寄付すんねん。『自分はとにかく人を喜ばせたいし、感動を与えたい。』そう言う人間になることや。」
なんかイイ話風にまとめようとしてるな。
まあ、確かに一理はある気がしてきた。だがふとこんな考えが頭によぎる。
「でも、募金ってなんか偽善者っぽい気がするんですよね〜笑」
するとポガチャールは「出たで」と言うと僕をにらんで言った。
「せやからお前は三流サイクリストなんや。
ええか?これからお前は表彰台に立つんやろ?そのつもりなんやろ?せやったら、これからは応援してくれる人をめちゃくちゃ感動させたり、世の中にとってええことしまくって行かなあかんのやで。それを後ろめたく思ってどないすんねん?」
「三流だと!?くそ、」
「お前、」
ぎく、、、
「そのマシン軽量化するためにいくら使った?たかが数十円、数百円の募金。そんなにコストパフォーマンスの高い行為はないやんけ」
???
何を言ってるんだコイツは?
ポガチャールは続けた。
「知っとるやろ、1円玉の重さ。ひとつ1gや。」
うむ、それは知っている。常識だ。
「これも知っとるよなぁ。『100g=1万円の法則』。ロードバイクの界じゃあ常識。これはパーツや用具を100g軽くしたければ1万円値段が高くなるということやな。」
「ま、まさか・・・!?」
「その『まさか』や。今までの話をまとめると、100円の募金で、1万円丸儲けってことやんけ。」
・・・。
いやいやいや、さすがに無理があるだろう(笑)俺は言い返そうとした。が、ポガチャールは止まらない。
「そもそも小銭数えてる暇があったらスクワットの1回でもせえっちゅう話やん。」
「なんなん?暇なん?」
「でもおかしいよな、小銭数えてるくらい暇なのにスクワットもせんと、表彰台に立ちたいっちゅーのは。」
「そらあ矛盾しとるよなぁ。自分が何を言ってるのか、意味がわからへんでぇ!」
頭の中で何かがブツリと音を立ててキレるのを感じた。
クッソ!!!これからお釣りでもらった小銭は全部募金BOXにブチ込んで、それでできた時間全部スクワットに投入してやる!そんでこのデブ像よりも脚を太くして必ず見返してやる!!
つづく。
小銭はサイクルジャージのバックポケットには入れずに募金する。
※この物語はフィクションです。
本記事は累計420万部売れた、“日本一読まれている自己啓発小説“水野敬也さん著の「夢をかなえるゾウ1」のパロディです。